Shadows of Time

ゲーム・音楽・紅茶・万年筆・絵画・焼菓子・歌舞伎・コウペンちゃんが好き。文章のリハビリというかアウトプットの為に色々書く予定。

六代目中村勘九郎襲名披露

f:id:SilentOpera:20190408213450j:plain

 

六代目中村勘九郎襲名披露 二月博多座大歌舞伎、夜の部に行って来ました。
中村屋さんは二年ぶりの博多座ですね。

 

f:id:SilentOpera:20190408212505j:plain

勘三郎さんが亡くなられて、色々と思うところの多い公演となりました。
勘三郎さんは母と同い年だし、ご兄弟も年が近いので、昔からご贔屓というか、
思い入れのあるご一家でした。
初めて観た歌舞伎も中村屋さん、一番観覧した歌舞伎も中村屋さん。
一番好きな役者さんも、中村屋さん。

いつもと違って、楽しみという気持ちが少なくて、何だか不思議な感じでした。

 

 

俊寛
片岡仁左衛門俊寛博多座では初披露」と宣伝してました。
仁左衛門さんはイケメンでいらっしゃるので、二枚目とか立役が素敵なのですが、
こういうお役も良いですね。
何年か前に見た時はふ~んって感じでしたが(あまり好きじゃない) 、
年を取って改めて観てみると、 染み入るものが有りますね…
あらすじは省きますが、
赦免船だ!お前は清盛公から赦されておらぬ!重盛が赦免してくれたぞ!よっしゃ帰んべ!女は乗せん!四人一緒じゃなきゃ帰らない!お前の妻は儂が殺した!と怒涛の展開。
「武士は人のあわれを知るというが…鬼界ヶ島に鬼はなし。鬼は都にありけるぞ」
俊寛と千鳥の絶望の深さ。それでも千鳥を思い遣る俊寛の父のような優しさ。
恋女房の居ない都に未練は無しと千鳥の為に罪を犯し、一人島に残る俊寛
「思い切っても凡夫心」
赦免船が遠ざかるにつれ、孤独感に苛まれる俊寛
泣き叫ぶ俊寛の弱さと未練、いつまでもいつまでも船を見送る姿が悲しかったです。
なるほど名作だわ…

俊寛というと老人のイメージが強いですが、仁左衛門さんの俊寛はまだ若さが有り、弱々しさも無く。
よたよたと流木の杖をついた老人だと、悲壮感ばかりで、千鳥の為に島に残るっていうのも、
老い先短い感が有って、だから好きじゃなかったのですが、
仁左衛門さんの俊寛像は今までのそれと違って、すごく良かったです。
やっぱり役者によって全く違うんですね。だから歌舞伎は面白いです。
あと、終盤、船を追いかけて海に入る俊寛が深みにはまる場面が有るのです。
花道のすっぽんを下げる演出だったのですが、思わず息を呑みました。
これは仁左衛門さんの俊寛でしか観られない演出らしいです。

 

『口上』
襲名披露興行は初めてだったので、絶対口上の有る夜の部に行こう!と思ってたら
勘三郎さんが亡くなられて、テレビで涙なしでは見れない口上が放送されて…
う~ん、何かそういう同情心とかをもってみるのが嫌だったんですね。
勘太郎兄さんはとても芸達者で、 勘九郎という名前に負けない素晴らしい役者さんです。
観る度に役者として幅を広げ、深みを増しています。
勘三郎さんという存在が大きすぎましたが、お父さんが亡くなったからどう、とか、そんな目で見たくなかったし、見て欲しくないんですよね。
まぁ、それも事実なのですが。
ただ、幼い頃から見てきたので、やっぱり感慨深いとか、老婆心みたいな感情も有り…複雑でした。

七之助の「大好きな父の名跡を、大好きな兄が襲名致しますということは…」に泣きました。
飾らない言葉でした。
父と兄を想う七の優しさが嬉しくて愛おしかったです…。
七之助は名前を継げませんし…)

 

義経千本桜 渡海屋・大物浦』
七之助は渡海屋の女将お柳、実は安徳天皇の乳母・典侍の局というお役。
何度か演っているようですね。
写真がすっごくお美しくって楽しみでしたが、本当に美しかった!
眼福!
昔は裾を直す時もちょちょって感じでしたが、いまはすっと自然かつ優雅に直せるようになりましたね…
そんなところにも感動。
高い知性と品格が求められるお役ですが、見事に演じていました。
天皇を抱き、入水を覚悟したその毅然さ、気高さ。
素晴らしかったです。
観る度に好きで良かったなぁと思わせてくれます。

そして勘九郎さんは渡海屋銀平、実は新中納言知盛役。
いやぁ、知盛、かっこ良かったです。
後世の創作に於いて知盛はかっこ良すぎる節がありますが、ここは主役なのでwそれでいいかなと。
時々、勘三郎さんを彷彿とさせる台詞回しが有りました。
もう二三十年後には「まるで勘三郎さんを見ているよう!」と思わせてくれるのでしょうか…う~ん。
それは置いといて、舞台上での存在感! とても大きかったです。
観る度、上手いなぁ、上手くなったなぁと思うのですが、存在感の大きさというのは初めて感じました。

義経に斬りかかる知盛の間に弁慶が割入り、出家を促すも知盛は拒絶。
すると安徳帝は自らの無事は義経の情けによるものだと知盛を諌め、
それを見ていた典侍の局は安徳帝義経に託し自害。
知盛は、一門の滅亡は横暴の限りを尽くした報いと嘆き、彼もまた安徳帝義経に託し、
綱を体に巻き付け、碇とともに入水。
義経安徳帝を奉じその場を去りますが、弁慶は振り返り、法螺貝を吹いてからそれに続きます。

もう壮絶!
そして弁慶いいトコ持って行きすぎw
いやもう、泣けました。凄かった。何というドラマ性。
勘九郎さんとそれを支える七之助が演じるにあたり、襲名披露狂言としてとても相応しい演目だったのではないでしょうか。
観終わった後は胸がいっぱいでした…。

 

芝翫奴』
吉原に、主人のお供をしてきた奴がはぐれて、提灯片手に 主人を探してまわる、という内容の舞踊。
15分程度のシンプルな(と言っていいのか)演目で、あまり舞踊に興味のない私も楽しめました。
探しながら主人の真似とかするんですよね。軽い笑いも有り。
橋之助さんは踊り上手ですよねぇ。台詞も無いし、役者は一人ですからごまかしがきかないですよね。

 

 

 

長らく使われていなかった勘九郎という名跡
勘三郎さんが日本はもとより世界中で愛される名前にしました。
歌舞伎界にとって、日本にとって、大きな大きな名前になりました。

 

襲名という事は名前を重ねること。
(襲の色目とかありますよね)
透明水彩でも重色という技法が有り、違う色を重ねて塗ることで新たな色が出るのです。

勘九郎さんはとても凛々しく、頼もしく見えました。
失ったものも背負うものもあまりに大きすぎると思いますが、きっと大丈夫でしょう。
彼だけの色を重ねて、一層輝いてくれると思います。